『――れな、せん、ぱい………?』
俺は今までずっと探してきたあなたを、やっと見つけることができた。

―中学2年の春、俺と先輩は出会った。
『新しくマネージャーをやらせてもらいます、です。よろしくお願いします!』
先輩はそう、元気よく挨拶した。
もちろん、この頃は先輩に興味なんてなかったし、どうせ他の奴ら一緒ですぐにやめていくだろう。
そんなことさえ思っていた。
夏の全国の決勝戦。
結果的に負けてしまったけど、先輩はみんなよく頑張ったね、と涙を流してくれた。
俺は、先輩の腕の中で、先輩のぬくもりを感じて、泣いた。
それからだ。
俺が先輩を意識するようになったのは――
全国大会が終わり、お世話になった先輩たちも引退。
もちろん、先輩も引退。
俺は先輩と離れるのが嫌で、自分に正直に今の気持ちを先輩にぶつけた。
俗に言う、“告白”というものだろう。
俺はてっきり先輩は仁王先輩が好きなのかと思っていた。
もちろん、告白も自分の気持ちにけじめをつけるためのもので。
それが受け入れられるなんて、みじんも思っていなかったんだ。
『あ、あのね?あたしも、赤也のことが好き――』
嬉しくて、嬉しくて身震いをした。
自然と涙も溢れてきた。
今でもあの時のことは鮮明に覚えている。
恐らく、先輩もだろう。
それから俺たちは付き合いだした。
過酷な運命が待っているとも知らずに…――
いつ頃だっただろうか。
先輩の腹部や顔にあざや擦り傷が以上に出来はじめたのは。
もちろん、先輩は俺といるときはいつもどおり、笑っていた。
俺が訪ねても、『何でもないよ』って微笑まれるだけ。
その笑顔が余計に痛々しかった。
それから、数日後。
俺と仁王先輩は偶然にも先輩が大勢の女子生徒たちにいじめを受けている現場は発見してしまった。
そう、先輩はひとりで耐えていたのだ。
あの小さい体で。いじめという現実に。
俺と仁王先輩は顔を見合わせて、当然、女たちと先輩の間に割って入った。
女たちはすぐさま立ち去ったが、先輩は、体もココロもボロボロだった。
そう、気付くのが遅かったのだ。
先輩は殴られて真っ赤に腫れ上がった瞼を必死に開けて、
『赤也、どうしたの?』
って微笑んだ。
何でなんだ。
俺はただ先輩が好きなだけなのに。
先輩もただ俺が好きなだけなのに。
何で先輩だけがこんなに苦しまなくてはならないのだろう。
――もう、先輩が苦しむのは見たくない。
『先輩。俺たち、別れましょう?』
無意識に口が動いていた。
先輩は微笑んでいた顔を一気に曇らせて、目頭に涙を浮かべた。
『な、何いっとるんじゃ、赤也!』
仁王先輩が俺を止める。
そうだ、仁王先輩は先輩が好きだった。
だったら、仁王先輩にしては、俺たちが別れたら好都合じゃないか――。
『大体、もう俺、先輩のこと好きじゃないんスよねー。』
『あ、赤……也……?』
先輩の目から涙がポロリと落ち、次々と流れていく。
だが、俺の口は止まらない――
『何つーか、先輩。重いッス。』
『…っ!!』
『ごめっ…、赤也…。あ、たし、重かっ…た、んだね。気付か、なくて…ご、めん。バイ…バイッ、あか、や…。』
先輩はヨロヨロと立ち上がって、溢れる涙は手で押さえながら、走り去った。
精一杯の嘘。
ホントは先輩のことは大好きだ。
死んでしまうくらい、愛している。
だけど、もうあなたの傷ついた顔は見たくないんだ。
愛してた、いや、これからもずっと、愛してる。
だから、俺を忘れて新しい男でも見つけて、幸せになってください。
バイバイ、―――
そう、これが俺たちの別れた理由。
他人からすれば、どうってことないだろうが、
俺からすれば、愛している人が目の前で傷ついているのを見ていく方が地獄だ。
それから先輩へのいじめをはぱたりとやんだらしい。
俺と先輩は顔も遇わせても、すれ違っても、無視。
ただの他人、いや、それ以下の関係になった。
あれから、4年。
俺は今でも、愛している。先輩を。
今さらこんなこと言ったって、どうにもならないけど。
だって、先輩は俺にあんなこと言われたんだぜ?
あいつ等も先輩を傷つけたが、
一番、傷つけたのは、他の誰でもない、
―――この俺だ。
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09.3.05