を唄う。♯01 前髪気にして視線隠して






切原、16歳。高校1年生。


そして隣にいるのは、切原赤也。


残念ながら彼氏でなく、ただの弟。


今年からテニス部の部長をしている。

うーん、でも、赤也に部長ってできるのかな…?


「―…ちゃん!ねーちゃんっ!」


「うわぁ、な、何よ。赤也。」



「はあ?聞いてなかったのかよ?」


「え…き、聞いてたよ!ジョンがユキにプロポーズしたって話でしょ?」



ちなみにジョンとユキとは従姉弟が飼っている犬の名前だ。



「ごめん、何の話?」


「あれ?違った?」


「全っ然、違う!俺は、ねーちゃんの好きな男の子ってどんなやつって聞いてんの!」


「あ!その話?えとね、髪が赤でうーん…何ていうかカッコいいんだけど可愛いっていうか……」


「ふーん………赤髪、ねぇ……?」




そう、あたし、現在人生で初めての片思いを経験中です!


あたしは恋とかそういうのにはかなりがつくほど鈍いから弟の赤也に相談中。





あたしの片思いの始まりは駅のホーム。


高校生になってから電車通学を始めたあたし。



そこで赤髪の男の子を見掛けたんだ。


まあ要するにひとめぼれってやつ?





「あー!あか、赤也っ!いたっ、いたよっ!」


「マジマジ!?どいつだよ?」


「あれ、あの赤髪でガム膨らませてる――って赤也、どうしたの?」


「あーあ…やっぱりな。ねーちゃん、あの人、俺の先輩。ちなみにねーちゃんと同じ高校だぜ?」



「うっそ……マジ…?赤也……」



し、信じられない。


赤髪の男の子が赤也の先輩だったなんて…(同じ高校だったなんて!)



ま、まあ、確かにラケット持ってるし……。








『おっ、赤也じゃん。何してんの?』




「あ、丸井先輩。お久しぶりッスー。」






――って、うわぁ!?


あ、赤髪の男の子がこんなに、ちっ、近くに……!



ていうか…睫毛長いな……目もパッチリしてるし…。


普通にあたしより可愛いよ……。




そう思いつつ、一生懸命、前髪を気にするあたし。


だって、これでも一応、女の子だもん!



好きな人の前くらいは可愛くいたいって思うよ、誰でも。






『ん?赤也、そいつお前の彼女?』



「は?ちょ、冗談もほどほどにしてくださいよ、先輩。ねーちゃんッスよ、ね・え・ちゃ・ん!!」



……このワカメ、冗談とか言っちゃったよ。


いいじゃない、あたしみたいな彼女。


大体、アンタなんてこっちから願い下げよーだっ!!




『へぇ、赤也のねーちゃん?赤也と似てなくて可愛いな。』



うわあ……か、可愛いって……



お世辞でも嬉しい。



あたしは自分のほっぺたがみるみる赤くなっていくのを実感した。




「ちょっ、丸井先輩!それってどういう意味ですか?」



「え、あ、あの、赤也がいつもお世話になっていて……」



「違う、ねーちゃん!俺がお世話してんのっ!!」



「何だと、このワカメ!あ、俺、丸井ブン太な。シクヨロ☆」





……ん?



丸井ブン太……?



ええっ!?丸井ブン太って…あの、女子に超人気の……!?






ど、どうしよう、あたしとんでもない人を好きになっちゃったみたい。



っていうか、その瞳でこっち見ないで――!



心臓持たないっ!






久しぶりに弟と通学した朝は大好きな人と出会って話して視線を隠した、そんな朝でした。










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09.3.22